2023年11月6日 • 所要時間:約7分

多様性のためのデザイン

インクルーシブデザイン戦略

by Nishtha Bali

以前にも増して相互のつながりが増え、多様性が高まり続けている現在では、インクルーシブデザイン戦略は圧倒的に重要な要素となっています。インクルーシブデザインとは単なる「美しいデザイン」以上のもので、多種多様な個人のニーズを満たす空間や製品、サービスを提供できるようにするものです。インクルーシブデザインの必要性 その答えは統計内に明確に表れています。

インクルーシブデザインのビジネスケース

市場拡大:多様性あふれるチームは、新しい市場を獲得する可能性が70パーセント高い。多様性あふれる企業は、フィナンシャルゴールを達成する可能性が120パーセント高い(Interaction UK)。

パフォーマンス促進:人種的または民族的に多様なチームのパフォーマンスは、そうではない他のチームと比べて35パーセント高く、性別的に多様なチームのパフォーマンスはそうではない他の同僚に比べて15パーセント高い(McKinsey & Co. 2019)。

従業員エンゲージメント:83パーセントものミレニアル世代は、所属する企業がインクルーシブな文化を促進していると感じられる場合、積極的にエンゲージメントする(Deloitte, 2015)。

インクルーシブなデザインを実現するためには、多様性の次元、つまり規模や特性を理解することが必要です。こうした要素は、年齢や身体能力、人種、民族性、文化、性自認、神経学的特徴、性的志向といった主要要因、そして教育、階級、言語、配偶者の有無といった二次的な要因を網羅するものです。この記事では、年齢、身体能力、性別、神経学的特徴といった主要要素を取り上げます。

良いコミュニケーションは、良い音響環境から始まります。

音響性は、包括性を実現する取り組みにおいて必要不可欠な要素です。

身体能力:包括性を徹底する

オンタリオ州立芸術大学のインクルーシブデザイン研究センターでディレクターを務めるJutta Treviranusは、デザインや環境、態度・姿勢、社会構造が人々を除外するように形成されている場合、私たちは誰でも障がいや不自由を体験し得る、と述べています。マイクロソフトが開発したインクルーシブデザインツールキットによれば、身体能力は永続的、一時的、あるいは状況的ともなり得えます。例えば、難聴は永続的なものとなり得ますが、耳の感染症(中耳炎など)は一時的であり、騒がしいバーで働くバーテンダーは状況的な困難に直面することもあります。

Treviranusは、障がいとは社会的に構築されたものであり、個人のニーズに対して提供できる環境、サービス、製品が釣り合わない場合に生じるものであると強調しています(Inclusive: The Film)。

年齢:世代間の差異を埋める

現代の労働力は多様な世代によって構成されており、それぞれの年齢層特有の性質やモチベーションを持っています。現在のワークプレイスでは、ベビーブーム世代、X世代、ミレニアル世代、Z世代の4世代が活躍しています。

それぞれの世代間の違いを見てみましょう。

  • ベビーブーム世代:企業への忠誠心、チームワーク、義務を重視する。テキストや対面でのやりとりなど、効率的なコミュニケーション手段を好む。
  • X世代:多様性、ワークライフバランス、個人的な仕事上の関心を重視する。テキスト、対面ミーティング、電話など幅広いコミュニケーション手段に対してオープンである。
  • ミレニアル世代:責任、指導力、ユニークな仕事体験を求める。主なコミュニケーション手段はテキストとEメール。
  • Z世代:多様性、パーソナライゼーション、個性、創造性を重視する。テキスト、ソーシャルメディア、音声メッセージなどのコミュニケーションを好む。(Purdue Global


こうした差異は誤解を引き起こすことがあり、全員がインクルーシブな雰囲気・環境を感じることができるようにするためには、それぞれの周囲への認識を高めることが極めて重要になります。 

ニューロダイバーシティ(神経多様性):多様な思考のためのデザイン

ニューロダイバーシティは異なる神経学的状態や認知能力(自閉症、注意欠如・多動症、失読症)を認識・認知することです。パンデミックの影響がもたらしたスクリーンタイム(スマートフォンなどの画面を見ている時間)の延長、感情調節障害や社会的孤立の増加などは人々に自身の状態の再評価を促し、ニューロダイバーシティの重要性を明確化しました。例えば、成人の26パーセントはパンデミック中に注意欠如・多動症の診断を受けています(ADDtitude)。そしてパンデミック後には、よりインクルーシブな職場環境、特に出勤に関連する要求が高まりました。オフィスと比べて自宅の方がよりインクルーシブな環境な場合、従業員はオフィスへ戻りたいとは思わないでしょう。
ニューロダイバーシティを考慮したデザインを生み出すことは、標準的神経を有する人から多様な神経を有する人に至るまで、様々な神経学的特徴を持つ個人をサポートするスペースを構築することを意味します。主要な考慮ポイントをご紹介します。

  • 手触り・触覚:集中を阻害することなく心地よさをもたらすために、質感のある素材を使用する。固い表面よりも柔らかい表面を選び、シーティングパッドやクッションを提供する。
  • 匂い・嗅覚:強い匂いは快適さや注意を妨げてしまうため、食べ物や洗剤などは作業空間から離れたところに置く。
  • 音・聴覚:カーペット、ソフトなシーティングなどのアコースティック家具を使用して、雑音を軽減する。感覚を圧倒してしまうような要素を制限・軽減するために、静かなエリアやウェルビーイングルームを設ける。音楽や周囲の雑音を好む人もいますが、中には静かな環境で仕事をした方が優れたパフォーマンスを発揮できる人もいます。
  • 視界・視覚:色合いは感情や集中に影響をもたらすため、ワークプレイスのデザイン時は色彩理論に精通した専門家に相談する。調節可能でカスタマイズ可能な照明が最適。反射率、視覚的に集中を妨げるもの、暗さなどの要素を考慮しましょう。(Interaction UK


それぞれの神経学的特徴を問わず、集中が求められる瞬間やほんの小さな要素が集中を妨げてしまう瞬間は誰にでもあります。ニューロダイバーシティを考慮したデザインとは、その空間で働くすべての人にとって必要なデザインを生み出すことを意味するのです。

Women@Work:パート 5

NishthaとAdithiのWomen@Workインタビューストーリーで、最新のデザインをご覧ください。

性別に関する包括性:多様性を受け入れる

性別に関する包括性(ジェンダーニュートラル、ジェンダー平等)は、あらゆる性自認を持つ個人への平等、尊重、尊厳を最優先する環境を促進するための基盤となるものです。この包括性を真の意味で実現するためには、私たちのあらゆる日常の側面でこれを浸透させ、誰一人として除外や疎外を感じることがないように徹底する必要があります。よりジェンダーニュートラルなオフィスを形成するのに役立つ、効果的なアプローチをご紹介します。

  • インクルーシブなお手洗いと施設:妥当な場合はジェンダーニューラルのお手洗いを設置し、あらゆる性自認の人に対応できるようにする。 お手洗いへのアクセスを確保し、必要なアメニティを備えるように徹底しましょう。
  • 授乳室:授乳中の母親が利用できるようプライベートな授乳室を提供し、快適なシーティング、コンセント、母乳を保管するための冷蔵庫などを装備する。 清潔でアクセスしやすく、居心地の良い空間になるようにしましょう。
  • インクルーシブな表記:オフィス全体でジェンダーニュートラルな表記・標識を使用し、誰もが包括性を感じられるようにする。
  • 柔軟なワークプレイス:簡単に調節が可能で多様な働き方や好みに対応できるような、柔軟性の高いワークプレイスを構築する。 高さ調節可能なデスクや人間工学に基づいたチェアを提供し、幅広い体型やニーズに対応できるようにする。
  • 柔軟な労働形態:フレックスタイム制やリモートワークオプションを提供し、多様な生活環境・状況(介護責任を負っている場合など)に対応できるようにする。 ワークライフバランスを促進し、従業員がプライベートと仕事のバランスを保てるようにサポートする。
  • インクルーシブなインテリアデコレーション:包括性があるインテリアデコレーションを選び、性別の固定観念を助長するようなデザインを避ける。 多様性や包括性を称えるようなアート作品やイメージを飾る。
  • 定期的なフィードバックチャネル:従業員が性別の包括性に関して懸念事項や提案を伝えることができるフィードバックチャネルを確立する。 継続的にワークプレイス環境を向上するために、フィードバックを考慮した措置を促し、行動する。


こうした戦略を取り入れることによって、企業はすべての従業員が尊敬・尊重され、優れたパフォーマンスを発揮するためにサポートされていると感じることができるようなジェンダーニュートラルなオフィス環境を促進することができます。

交差性(インターセクショナリティ):単一のアイデンティティという概念を超える

交差性を考慮することは非常に重要です。交差性とは、アイデンティティは差別や疎外が重なる形態に個人を晒し得るものであるということを認識することを指します。こうしたアイデンティティには、特に年齢や性別が含まれます。空間をデザインする際には、空間を認識・体験する方法は人それぞれ異なるということに留意しましょう。

アクセシビリティ VS ユニバーサルデザイン VS インクルーシブデザイン

アクセシビリティ、ユニバーサルデザイン、インクルーシブデザインの違いをきちんと認識することは極めて重要です。

アクセシビリティ:環境や空間が、聴覚、認知、身体、視覚的障がいを持つ人でも「利用できる」ものとなるよう徹底することに焦点を当てている。

ユニバーサルデザイン:適応や特別なデザインを用いることなく、可能な限りすべての人がアクセスできる「1つ」の体験の構築を目指している。

インクルーシブデザイン:個人がインターフェースを効果的に使用できることを妨げるような可能性のある体験に対し、多様性を考慮する。誰もが参加し、帰属できるような「多様な」方法の構築を目指すものである。(nngroup

3つの相違点を確認しましたが、これらには共通する要素もあります。これらはすべて障害となるものを軽減し、製品があらゆる人にとって使用可能なものとなるようにしています。また、障がい・不自由は人と環境の間に生じるものであることを認め、与えられた状況の中で人々がそれぞれの能力に基づいて環境に適応する方法から学ぶことを指します(Toptal)。 

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包括性への第一歩:基盤

包括性の実現には、慎重に検討された意図的な行動が必要です(Maze):

  • 多様性に富んだチームを雇用する:デザインプロセス内で、異なる背景や経験を持つ人たちの意見を取り入れる。
  • 指導者を招く:インクルーシブな空間デザインを理解し、促進するために業界の専門家から学ぶ。
  • 異なる種類の多様性を考慮する:あなたのデザインが特定の人々をどのように除外し得るかを熟考し、除外され得る人々を包括できる方法を見つける。
  • 多様なユーザーを迎えて調査を実施する:プロセス内に多様なニーズや背景を持つ参加者を含め、インサイトや検討すべきポイントを発見する。
  • アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)トレーニングに参加する:自分が持つ偏見とその偏見があなたのデザインにもたらし得る影響を認識する。
  • デザインをテストする:多様なユーザーを迎えて空間をテストし、収集したフィードバックを参照し、必要に応じて調整する。


インクルーシブデザイン戦略を用い、多様性に配慮してデザインすることは道徳的な責務であるだけではなく、戦略的な利益をもたらすものでもあります。年齢、身体能力、性別、ニューロダイバーシティを受け入れ、取り入れることで、イノベーションを促進し、個々のパフォーマンスを高め、すべての人が能力を発揮して成功できるようにサポートすることができます。インクルーシブなデザインを実現する原則を取り入れて、より公平で可能性が開かれた世界をすべての人のために構築しましょう。

この記事はNishtha BaliのLinkedInページで初めて公開されました。

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